不適王の再建記                    

©️ 2018-2023 不適王 (id:nekozebito)                                                

極限の攻防

【日頃ありがとうございます。お食事中の方はご遠慮下さいませ。】

 

 

あの日の経緯はよく覚えていない。

 

急激にやって来たのか、

はたまた我慢していて間に合うと思ったのか、

そのあたりのことをよく覚えていない。

 

およそ30歳の時であった。

 

当時、4階建アパートの4階の角部屋に住んでいた。

そのアパートに帰宅するタイミングでのことだった。

 

私はお腹が緩んでいた。

猛烈な便意を催していた。

 

アパートまでの帰宅ルートの途中にコンビニが2軒あるので、なんとでもなったはずだ。

 

なぜコンビニに入らなかったのかは不明だ。

 

アパートの1階には公共のトイレなど無い。

エレベーターも無く、部屋がある4階までは階段を登らなければならなかった。

 

その長い長い階段を登っている時点で、1点集中の極限状態。

歯を食いしばり、冷や汗をかきながら、呼吸も浅くなり、一歩一歩、4階を目指していたことは覚えている。

 

(うぅ…これはヤバいやつだ…)

 

長い長い階段での攻防を奇跡的に耐え抜き、どうにかこうにか4階まで辿り着くことができた。

しかし私の部屋は廊下の一番奥だったので、もう少し距離がある。

 

普段であれば何でもない距離が、めちゃくちゃ遠かった。

それでも、すぐ向こうに部屋の玄関が見えている。

 

1点集中の せめぎあいは、私の歩行すら困難にしていた。

 

両脚を閉じ、凄まじい緊張感を保ったまま、ゆっくり半歩ずつ…

 

(トイレまであともう少しだ…)

 

(玄関を開けたらトイレはすぐそこだ…)

 

(うぅ…とにかく間に合ってくれ…)

 

そして、

 

ついに、

 

私は玄関にたどり着いたのだ!

よく耐え抜いた!

 

まさに震える体で急ぎ玄関の鍵を開けた。

 

 

その時だった。

 

 

あ…あぁ……

 

 

決壊した。

 

限界だった。

 

一度決壊したものは、絶対に止めることができないということを、身に染みて感じた瞬間だった。

 

あきらめの境地がパンツ一杯に積もっていった。

 

トイレまであとほんのわずかだった。

 

あと何歩か進んだらズボンをおろすところまでイメージしていた。

 

ここまで耐え抜いたのに、なぜこうなるのか…

 

悔しくて腹立たしくて仕方なかった。

 

振り返れば、食べ物にあたった感覚は無かったので、帰宅直前ということで、おそらく外出からの緊張が解けたからなのではないか、と思っている。

当時は、緊張感が解けると便意を催していた傾向があった。

 

近所のコンビニに行けたのなら寄れば良かったように思うが、帰宅してから間に合うと判断したのだろうか。

 

それにしても、あの日は展開が早かったように思う。

 

幸いなことに、あの日以来、そういったことは一切ない。

 

 

 

不適王