【日頃ありがとうございます。お食事中の方はご遠慮下さいませ。】
あの日の経緯はよく覚えていない。
急激にやって来たのか、
はたまた我慢していて間に合うと思ったのか、
そのあたりのことをよく覚えていない。
およそ30歳の時であった。
当時、4階建アパートの4階の角部屋に住んでいた。
そのアパートに帰宅するタイミングでのことだった。
私はお腹が緩んでいた。
猛烈な便意を催していた。
アパートまでの帰宅ルートの途中にコンビニが2軒あるので、なんとでもなったはずだ。
なぜコンビニに入らなかったのかは不明だ。
アパートの1階には公共のトイレなど無い。
エレベーターも無く、部屋がある4階までは階段を登らなければならなかった。
その長い長い階段を登っている時点で、1点集中の極限状態。
歯を食いしばり、冷や汗をかきながら、呼吸も浅くなり、一歩一歩、4階を目指していたことは覚えている。
(うぅ…これはヤバいやつだ…)
長い長い階段での攻防を奇跡的に耐え抜き、どうにかこうにか4階まで辿り着くことができた。
しかし私の部屋は廊下の一番奥だったので、もう少し距離がある。
普段であれば何でもない距離が、めちゃくちゃ遠かった。
それでも、すぐ向こうに部屋の玄関が見えている。
1点集中の せめぎあいは、私の歩行すら困難にしていた。
両脚を閉じ、凄まじい緊張感を保ったまま、ゆっくり半歩ずつ…
(トイレまであともう少しだ…)
(玄関を開けたらトイレはすぐそこだ…)
(うぅ…とにかく間に合ってくれ…)
そして、
ついに、
私は玄関にたどり着いたのだ!
よく耐え抜いた!
まさに震える体で急ぎ玄関の鍵を開けた。
その時だった。
あ…あぁ……
決壊した。
限界だった。
一度決壊したものは、絶対に止めることができないということを、身に染みて感じた瞬間だった。
あきらめの境地がパンツ一杯に積もっていった。
トイレまであとほんのわずかだった。
あと何歩か進んだらズボンをおろすところまでイメージしていた。
ここまで耐え抜いたのに、なぜこうなるのか…
悔しくて腹立たしくて仕方なかった。
振り返れば、食べ物にあたった感覚は無かったので、帰宅直前ということで、おそらく外出からの緊張が解けたからなのではないか、と思っている。
当時は、緊張感が解けると便意を催していた傾向があった。
近所のコンビニに行けたのなら寄れば良かったように思うが、帰宅してから間に合うと判断したのだろうか。
それにしても、あの日は展開が早かったように思う。
幸いなことに、あの日以来、そういったことは一切ない。
不適王